歌舞伎十八番の内 外郎売(ういろううり) 口上全文

歌舞伎十八番の内 外郎売

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目次

役名

  • 外郎売 実は曽我五郎時致
  • 大磯の虎
  • 小林妹 舞鶴
  • 化粧坂少将
  • 梶原平三景時
  • 梶原平次景高
  • 茶道 珍斎
  • 遊君 喜瀬川
  • 遊君 亀菊
  • 小林朝比奈
  • 工藤左衛門佑経

口上全文

外郎売

拙者(せっしゃ)親方(おやかた)と申すは、お立合(たちあい)にも先達(さきだっ)て御存知(ごぞんじ)のお方もござりましょ、 お江戸を立って二十里上方(かみがた)、相州小田原一色町(そうしゅうおだわらいっしきまち)をお過ぎなされて、青物町(あおものちょう)をお登りへお出でなさるれば、欄干橋(らんかんばし)虎屋藤衛門(とらやとうえもん)、只今(ただいま)は剃髪(ていはつ)致(いた)して、円斎(えんさい)竹しげ、元朝(がんちょう)より大晦日(おおつごもり)まで各々(おのおの)様のお手に入れまするは此の透頂香(とうちんこう)と申す薬、昔ちんの国の唐人(とうじん)外郎(ういろう)と申す者、わが朝(ちょう)へ来り、この名方(めいほう)を調合いたし持薬に用いてござる、神仙不思議の妙薬、時の帝(みかど)より叡聞(えいぶん)に達し御所望(ごしょもう)遊ばされしに、ういろう即ち参内(さんだい)の折(おり)から件(くだん)の薬を深く秘して冠(かんむり)の内に秘めおき、用うる時は一粒(いちりゅう)ずつ冠(かんむり)の隙間(すきま)より取り出いだす、よって帝より、その名をとうちんこうと賜(たま)わる、即ち文字(もんじ)には、「頂(いただき)に、透(す)く、香(におい)」と書いて、「とうちんこう」と申す。

只今はこの薬、殊(こと)の外(ほか)ひろまり、透頂香という名は御意なされず、世上一統にただういろうういろうとお呼びなさる、慮外ながら在鎌倉のお大名(だいみょう)様方(さまがた)、御参勤御発足の折からお駕籠(かご)をとめられ、此の薬何十貫文とお買いなされ下されまする、もしお立ちの内にも熱海(あたみ)か塔ノ沢(とうのさわ)へ湯治(とうじ)にお出でなさるるか、又は伊勢(いせ)ご参宮(さんぐう)の時分は、必ず門違(かどちが)いなされまするな、お下(くだ)りなされば左、お上りならば右の方、町人でござれども屋づくりは八方(はっぽう)が八つ棟、おもてが三つ棟(むね)玉堂造(ぎょくどうづく)り、破風(はふ)には菊(きく)に桐(きり)のとうの御紋(ごもん)を御赦免(ごしゃめん)あって、系図(けいず)正しき薬でござる。

外郎売

近年は此の薬やれ売れるはやるとあって、方々に看板を出し、小田原の炭俵(すみだわら)のほんだわらのさんだわらのと名付け、ほうろくにて甘茶をねり、それに鍋すみを加え、あるいはういなんういせつういきょうなどと似たるを申せども、平仮名を以てういろうと致したは親方円斎ばかり、
見世は昼夜の商い、暮れて四つまで四方に銅行燈(かなあんどん)を立て、若い者共入替り御手に入れます、尤も値段は一粒一せん百粒百銭、たとい何百貫お買いなされても、いっかないっかな負けも添えも致しませんぬ、さりながら振舞いまするは百粒二百粒でも厭(いと)いは致さぬ、さいぜんから薬の効験(こうけん)ばかり申しても、御存じのない方には胡椒(こしょう)の丸呑(まるのみ)、白河夜船(しらかわよふね)、さらば半粒(はんりゅう)ずつ振舞いましょう、御遠慮なしにお手を出して、摘んで御覧(ごろう)じませい、第一が男一統の早気付け、舟の酔(よい)酒の二日酔いをさます、魚鳥木のこ麺類のくい合わせ、その外(ほか)淡を切りて声を大音に出す、六(りく)ちん八進十六ぺん、製法細末(せいほうさいまつ)をあやまたず、かんれいうんの三つを考え、うんぽうの補薬(ほやく)御口中(ごこうちゅう)に入(い)って朝日に霜の消ゆる如く、しみしみとなって能(よ)き匂いを保つ、鼻紙の間に御入れなされては五両十両でお買いなされた匂い袋や掛香(かけごう)の替わりが仕(つかまつ)る、まず一粒上がって御覧じませい、口の内の涼しさが格別な者、薫風(くんぷう)喉(のんど)より来たり、口中(こうちゅう)微涼(びりょう)を生(しょう)ず、さるによって舌のまわる事は銭(ぜに)独楽(ごま)がはだしで逃にげる、どのようなむつかしい事でもさっぱりと言うてのけるは此の薬の奇妙、証拠のない商いはならぬ、さらば一粒食べかけてその気味合いをお目にかきょう、ひょっと舌が廻り出だすと、矢も盾もたまらぬ。

外郎売

そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるわ。さああわや喉(のど)、さたらな舌にかきはとて、はなの二つは唇の軽重(きょうじゅう)開合(かいこう)さわやかに、うくすつぬほもよろを、あかさたなはまやらわ、いっぺきぺきにへぎほしはじかみ盆(ぼん)まめ盆米(ぼんごめ)盆(ぼん)ごぼう、摘蓼(つみたで)つみ豆、つみ山椒(さんしょう)、書写山(しょしゃざん)のじゃそう中、粉米(こごめ)の生がみ、生がみらんこ米(ごめ)のこなまがみ、繻子繻子(しゅすしゅす)非繻子(ひじゅす)繻子繻珍(しゅちん)、親も嘉兵衛(かへえ)、子も嘉兵衛、親嘉兵衛(おやかへえ)子嘉兵衛(こかへえ)親嘉兵衛(おやかへえ)、 古栗(ふるぐり)の木の古切口(ふるきりくち)、雨合羽(あまがっぱ)かばん合羽(がっぱ)、貴様の脚絆(きゃはん)も革脚絆(かわきゃはん)、我等が脚絆も革脚絆、しっかり袴(はかま)のしっぽころびを、三針(みはり)なりなかににちょと縫(ぬ)うて、縫うてちょとぶん出せ、河原撫子(なでしこ)、野石竹(のせきちく)、のら如来(にょらい)のら如来、みのら如来にむのら如来、一寸のお小仏(こぼとけ)におけつまづきやるな、細溝(ほそみぞ)にとちょにょろり、京(きょう)の生鱈(なまだら)奈良(なら)なままな鰹(がつお)、ちょと四五貫目、 お茶たちよ茶立ちよ、ちゃっと立ちよ、茶立ちよ、青竹茶筅(あおたけちゃせん)でお茶ちゃと立ちや、

外郎売

来るは来るは何が来る、高野(こうや)の山のおこけら小僧、狸(たぬき)百匹、箸百膳(ぜん)、天目(てんもく)百杯、棒(ぼう)八百本、武具(ぶぐ)馬具(ばぐ)武具馬具三武具馬具、あわせて武具馬具六武具馬具、菊栗菊栗三菊栗、あわせて菊栗六菊栗、 あの長押(なげし)の長薙刀(ながなぎなた)は、誰(た)が長薙刀ぞ、向こうの胡麻(ごま)がらはいぬのごまがらか、真(ま)ごまがらか、 あれこそほんの真胡麻殻(まごまがら)、がらがらぴいぴい風車(かざぐるま)、おきやがれこぼしおきやがれこぼし、 ゆんべもこぼして又こぼした。たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりからちりからつたつぽ、 たぽたぽひだこ落ちたら煮て食おう、煮ても焼いても喰われぬものが、五徳(ごとく)鉄きゅうかな熊童子(どうじ)に、石熊(いしくま)石持(いしもち)、とら熊とら鰒(ふぐ)、中にも東寺の羅生門には、茨木童子(いばらきどうじ)がうで栗五合(ごんごう)つかんでおむしゃるかの頼光(らいこう)のひざ元さらず、

外郎売

鮒(ふな)きんかん椎茸(しいたけ)定(さだ)めて後段(ごだん)はそば切りうどんかくどんな小新発知(こしんぼち)、小棚(こだな)のこしたに小桶(こおけ)にこ味噌(みそ)がこあらず、こほどに小杓子(こじゃくし)こもってこすくてこよこせ、おっと、合点だ、心得(こころえ)たんぼの川崎(かわさき)神奈川(かながわ)程ヶ谷(ほどがや)はしってどっかへ行けば、やいとをすりむく三里(さんり)ばかりか、藤沢(ふじさわ)平塚(ひらつか)大磯(おおいそ)がしや小磯(こいそ)の宿(しゅく)を、七つ起(お)きして早天(そうてん)そうそう、相州(そうしゅう)小田原(おだわら)透頂香(とうちんこう)、かくれござらぬ御(おん)ういろう(老)若男女(にゃくなんにょ)貴賎群衆(きせんぐんじゅ)の、花(はな)のお江戸の花うい郎、 あの花を見て心をおやはらぎゃっという、産子(うぶこ)這子(はうこ)に至たるまで、此の外郎(ういろう)の御評判(ごひょうばん)、御存じないとはいわれまい、まいまいつぶり角(つの)出せ棒(ぼう)出せぼうぼう眉(まゆ)に、臼杵(うすきね)すりばちばちばち、どろどろどろがらがらがらと羽目(はめ)をはずして今日お出(い)での方々(かたがた)さまへ、売らねばならぬ上げねばならぬと、いきせい引っぱり薬(くすり)の本(もと)じめ、薬師如来(やくしにょらい)も照覧(しょうらん)あれと、ほほ敬(うやま)って、ういろうはいらっしゃりませぬか。

参考文献

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 「開合(かいこう)さわやかに、うくすつぬほもよろを、あかさたなはやらわ、」は「はまやらわ」?。[早天(そうてん)そうそう、相州小田原透頂香、かくれござらぬ御いうろう若男女貴賎群衆]のくだりは「老若男女」だとしたら「御い」の意味が不明。総体的にふりがなを増やして欲しかったとおもいます。

    • 返信遅くなり大変申し訳ありません。
      誤字の御指摘ありがとうございます。修正いたしました。

      引き続き何かありましたら、よろしくお願い申し上げます。

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