役名
- 日本駄右衛門 (にっぽんだえもん)
- 南郷力丸 (なんごうりきまる)
- 弁天小僧菊之助 (べんてんこぞうきくのすけ)
- 忠信利平 (ただのぶりへい)
- 赤星十三 (あかぼしじゅうざ)
- 捕手(とりて) 等
二幕目 : 稲瀬川(いなせがわ)勢揃(せいぞろ)いの場
迷児の迷児の三太郎やあい。
又ばらばらやって来たが、大降りにならねばよい。
初瀬寺(はせでら)から稲瀬川、この界隈(かいわい)にいぬからは、
朝比奈(あさひな)の切り通しを越え、六浦(むつら)の方へ行ったか知らぬ。
それじゃあこれから一(ひと)のしに、瀬戸橋までやッつけよう。
先へ行ったら知らぬこと、後なら彼処(あすこ)でがんばれば、
知れるは必定(ひつじょう)、一方路(ぽうみち)、
路(みち)のぬからぬそのうちに、
こっちもぬからず、ちっとも早く、
いずれもござれ。
迷児やあい迷児やあい。
雪の下から山越しに、まずここまでは逃げのびたが、
行く先つまる春の夜の、鐘も七つか六浦川(むつらがわ)、
夜明けぬうちに飛石(とびいし)の洲崎(すさき)をはなれ、船に乗り、
故郷を後に三浦から岬の沖を乗りまわさば、
陸(くが)とちがって波の上、人目にかかる気遣いなし、
しかし六浦の川端まで、乗っきる畷(なわて)が遠州灘(えんしゅうなだ)、
油断のならぬ山風に、追風(おいて)か追手(おって)の早風(はやて)に遭えば、
艪櫂(ろかい)にあらぬ一腰の、その梶柄(かじづか)の折れるまで、
腕前(うでめえ)見せて切り散らし、かなわぬ時は命綱、
錠(いかり)を切って五人とも、帆綱(ほづな)の縄に、
かかろうかい。
盗賊の張本(ちょうぼん)日本駄右衛門、それに従う四人の者、やることならぬ、
うごくな。
さては、五人がこの所へ来るをまちぶせ、
なしたるか。
迷児を捜す態(てい)に見せ、幾組(いくくみ)となく手わけをなし、網を張って待っていたのだ。
むむ、かく露見(ろけん)の上は、卑怯未練に逃げはせぬ、一人々々に名を名乗りい縄にかかって、
刑罰受けん。
けなげな一言、して真っ先に、
進みしは。
問われて名乗るもおこがましいが、産まれは遠州(えんしゅう)浜松在(はままつざい)、十四(じゅうし)の年から親に放れ、身の生業(なりわい)も白浪の沖を越えたる夜働き、盗みはすれど非道はせず、人に情(なさけ)を掛川(かけがわ)から金谷(かなや)をかけて宿々で、義賊と噂高札に廻る配附(はいふ)の盥越(たれえご)し、危ねえその身の境界(きょうげえ)も最早四十に人間の、定めはわずか五十年、六十余州に隠れのねえ賊徒(ぞくと)の帳本(ちょうぼん)日本駄右衛門。
さてその次は江の島の岩本院(いわもといん)の児(ちご)あがり、ふだん着慣れし振袖から髷(まげ)も島田(しまだ)に由井ケ浜(ゆいがはま)、打ち込む浪にしっぽりと女に化けた美人局(つつもたせ)、油断のならぬ小娘も小袋坂(こぶくろざか)に身の破れ、悪い浮名も竜(たつ)の口(くち)土の牢へも二度三度、だんだん越える鳥居数(とりいかず)、八幡様の氏子にて鎌倉無宿と肩書も島に育ってその名さえ、弁天小僧菊之助。
続いて次に控えしは月の武蔵の江戸そだち、幼児(がき)の折から手癖が悪く、抜(ぬけ)参(めい)りからぐれ出して旅をかせぎに西国(さいこく)を廻って首尾も吉野山、まぶな仕事も大峰(おおみね)に足をとめたる奈良の京、碁打(ごうち)と言って寺々や豪家(ごうか)へ入(い)り込み盗んだる金が御嶽(みたけ)の罪科(つみとが)は、蹴抜(けぬけ)の塔の二重三重、重なる悪事に高飛なし、後を隠せし判官(ほうがん)の御名前(おなめえ)騙(がた)りの忠信利平。
またその次に列(つら)なるは、以前は武家の中小姓(ちゅうごしょう)、故主(こしゅう)のために切取りも、鈍(にぶ)き刃(やいば)の腰越や砥上(とがみ)ケ原に身の錆(さび)を磨ぎなおしても抜き兼ねる、盗み心の深翠(みど)り、柳の都(みやこ)谷七郷(やつしちごう)、花水橋(はなみずばし)の切取りから、今牛若と名も高く、忍ぶ姿も人の目に月影(つきがみ)ケ谷(やつ)神輿(みこし)ケ嶽(たけ)、今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜(ほしづきよ)、その名も赤星十三郎。
さてどんじりに控えしは、潮風(しおかぜ)荒(あら)き小ゆるぎの磯馴(そなれ)の松の曲りなり、人となったる浜そだち、仁義の道も白川の夜船へ乗り込む船盗人(ふなぬすびと)、波にきらめく稲妻の白刃に脅す人殺し、背負って立たれぬ罪科(つみとが)は、その身に重き虎ケ石(とらがいし)、悪車千里というからはどうで終いは木の空と覚悟は予(かね)て鴫立沢(しぎたつざわ)、しかし哀れは身に知らぬ念仏嫌えな南郷力丸。
五つ連れ立つ雁金(かりがね)の、五人男にかたどりて、
案に相違の顔触(かおぶれ)は、誰(たれ)白浪の五人連れ、
その名もとどろく雷鳴(かみなり)の、音に響きし我々は、
千人あまりのその中で、極印(こくいん)うった頭分、
太えか布袋か盗人(どろぼう)の、腹は大きい胆玉(きもったま)、
ならば手柄に、
からめて見ろ。
なにをこしゃくな。
今日は一緒に身の終わりと、覚悟はせしが一日でも 脱れられなば逃げ延びん。
いかさま命が物種(ものだね)なれば、
五人連れにて一先ずこの地を、
いや、大勢(おおぜい)づれでは人目に立つ。忠信、赤星両人は、これよりすぐに中仙道、南郷、弁天両人は道を違えて東海道、片時も早く落ち延びよ。
してまた、頭は、
この身はやっぱり鎌倉のうちに隠れて、後より出立(しゅったつ)。
そんならこれより右左、
わかれわかれに旅路へ出かけ、
道中筋を一働き、
五月を待って京都にて、
ふたたび出逢う、
五人男。
捕った。
またもや、捕手(とりて)、
いや、ここ構わずと、
そんなら頭、
片時(へんし)も早く、
合点だ。
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