役名
- 小野左衛門春道 (おのさえもんはるみち)
- 同一子春風 (はるかぜ)
- 家老八剣玄蕃 (かろうやつるぎげんば)
- 同一子数馬
- 家老秦民部 (はたみんぶ)
- 同弟秀太郎
- 桜町中将清房 (さくらまちちゅうじょうきよふさ)
- 小原万兵衛 (おはらまんべえ)実は石原瀬平(いしはらせへい)
- 粂寺弾正 (くめでらだんじょう)
- 小野の息女錦の前
- 侍女巻絹 (まきぎぬ)
- その他忍びの者
- 仕丁
- 侍等
小野春道館(おののはるみちやかた)の場
はて、合点の行かぬ御病気じゃなあ。髪の毛は血分(ちぶん)の余り、しいかんじんを予(かね)てしたうと聞き及ぶ。血分の足り不足(ふた)りによって、いろいろと髪筋に格段はあるものなれども、あの通りに髪の毛の逆様に立つというは、まったく五臓のなるところでもなし、またあの薄衣も合点が行かず、思案をして見れば見るほど、はて訝(いぶか)しい御病気じゃなあ。
お使者様御苦労に存じまする。わたくし儀は秦民部が弟、同苗秀太郎と申す者でござります、民部申し越しまするは、弾正さま御退屈にござりましょう。追っつけ御口上の通り、大殿様へ御披露申し、御返事を承り、拙者がお目にかかりますでござろう。お待ち遠ながら、今しばらくお控えなされて下さりましょう。わたくしに参ってお伽を申せと、申しつけましてござりまする。
これはこれは御丁寧な。あの其許が民部どのの御舎弟、はてよい御器量かな。御才人に見えまする。末頼もしゅうござる。さだめて弓槍のお稽古なされてござりましょうの。
はあ、槍は静間、弓は那須野流を稽古いたしまする。
これは二道とも結構な流儀でござる。精出しましょうぞ。して、馬はどの流儀を稽古なさるるな。
いや、馬は稽古にかかりませぬ。
まだ馬は稽古せぬ。
さようにござりまする。
これはしたり、弓馬の道と申して、武士の一番最初に稽古いたさねばならぬ儀でござる。御油断に聞こえまする。さっきゃくながら、馬ののりよう、拙者御指南申しましょう。
それはかたじけのうござりまする。当瀬におきまして、粂寺弾正さまの御指南を受けますると申すは、いかいわたくしの規模(きぼ)でござりまする。どうぞ御指南頼み上げまする。
易いこと易いこと、指南いたさいでどう致そう。先ず馬の乗りよう、一寸教えましょう。立ち入っては様々むずかしい儀もござれども、第一は手綱捌きが稽古の初めでござる。手の内が大事じゃ。御指南申そう、お手を取りまする。
さて柔らかな手かな、先ず手綱をこう握って、こうじっと締めてな。この手の内、御合点か。
あいあい。
さて、これからが、肝腎肝文、馬の乗りよう、鞍坪へ腰の据えよう。さらば御伝授申そうか。
こう絞めつけて乗り据えるが、伝授でござる。これはどうもならぬならぬ。鞍の上の乗り具合、てんと命め命め。とてものことに、一馬場(ひとばば)せめて御指南申そうか。
ああこれ、悪いことなされまするな。
はて、これが馬の乗りよう。指南稽古というものは、じっと辛抱せねば芸が上がらぬ。これ、拝む拝む。
ああこれ、悪いことなされまするな。わたくしはそんな馬の稽古は存じませぬわいなあ。
これは没義道(もぎどう)な。口のこわい馬かな、たった一馬場。
自堕落な、おかっしゃりましょう。
ははははは、はて、堅い若衆かな。近頃面目次第もござりません。
はて、返事は待ち遠しいことかな。
どうもあの髪の逆立つは、思案して見ても、とんと読めぬことじゃ。薄衣を外すと、
ドロドロ、いや、どうしても合点が行かぬ。
お姫様からの御口上でござりまする。弾正さまには、さぞ御退屈にござりましょう。せめての御気慰みに、挽(ひ)き置きながら上林(かんばやし)の初昔(はつむかし)、お姫様のお手前で、薄うお立てなされた、一服あがって下さりmせいとの、御口上でござりまする。
これはお心のつかれた有難い仕合せでござりまする。お姫様からのお茶とは、どうも言えぬ御馳走。さらば下さりましょう。
お姫様のお茶も嘸(さぞ)かしでござろうが、先ず差しあたって、其許のお茶一服喰べたいです。
ああこれ、てんごうなされまするな。さあ、お姫様からのお茶を、早う召しあがりませい。
なんぼう有難いといっても、お姫様のお茶は頤(おとがい)の滴(しずく)で、肝腎肝文のお茶が入らぬ。其許のを一服所望致したい。なんと男の肌は初音か初音か。
ええ嗜(たしな)ましゃんせ。堅い顔して、わしゃそんなことは知らぬわいなあ。
てんとこれで二杯ふられた。さらば一服たまわろうか。
こりゃどうじゃ、毛抜に足が生えたわ。とかく合点の行かぬ。下に置くと踊る。取るとなんともなし。はて、その意を得ぬ。今日ほど合点の行かぬことのある日はない。どうでもここは化物屋敷ではないか知らぬ。
毛抜の踊るというは、とんと読めぬことじゃ。
ふむ、煙管は踊らぬ。
あれあれ、また踊るわ。
毛抜と小柄は踊る。煙管は踊らぬ。はて、これはなんぞの。
はて、合点がゆかぬ。
民部さまはどれにござりまする。民部さま民部さま。
こいつも化物そうな。とかく化物屋敷に極まった。
あわただしい。両人を呼んで何事じゃ。
いえもう、大きなことが出来ましてござりまする。
気遣しい、何ごとじゃ。早く申せ、何ごとじゃ。
只今百姓体の賤しい者が、お玄関へ参りまして、若殿春風さまに、直にお目にかかって用があると申して、のさのさ奥へ踏み込みまするゆえ、当番の侍どもが居ましてござりますれども、なかなか強勢(ごうせい)者で、張り倒し突き倒し、もうこれへ参りまするようにござりまする。
不調法千万な。なにほど強勢なればとて、留めぬということがあるものか。早く追い戻せ追い戻せ。
こう申すうちに、あれあれ、これへ参りまする。
また化物が湧き出るそうな。油断のならぬ屋敷じゃ。
なんぼうおぬしたちが留めても、留まる男じゃない。天満天神(てんまてんじん)住吉大明神がお留めやっても、春風どのに逢わにゃならぬ。さあ、退いた退いた。
貴様達とのせり合いによって腹がすいた、先ず兵糧を遣うて、
このお館の息子春風どのにお目にかかろう。春風どの、出さっしゃれ出さっしゃれ。まあ腹でも丈夫にして。
春風どの、出やらぬかいの出やらぬかいの、借銭乞いの言いわけするように、古い格で留守を使うまいぞ。さあ、出やいの出やいの。
待とう。見ればはるか賤しい下郎じゃが、若殿に軽々しい、お目にかかろう出やれのと、緩怠(かんたい)千万な。酒の酔か狂人か。出て失せおろう。この上に狼藉すると、手は見せぬぞ。
ははははは、あんまり叱って貰うまい。若殿でも夜の殿でも、逢うて用があるから来たのじゃ。滅多に叱り立てして、後であやまるな。侍がつくぼうて、三拝するは見苦しいものでえす。すっ込んでお居やれいの。春風どのはどうだな、出ぬか、惣領どの、いや春風どの、うんつく太郎どのへお目にかかりたい。いや、逢いたいわいの。
いや、推参な下郎めが。出て失せぬか。。
民部殿、お待ちゃれ。めったに叱るまい。いずれも、若殿に逢う筋があればこそ、歴々の屋敷へ踏み込んで最前からの体(てい)。あれが言う通り、ひょっと後で、こちとがあやまりになるまいものでもない。一通り様子を聞いて、その上でのことさ。こりゃそこな男、そちゃ元来何者じゃ。どういう仔細で春風どのに、直に逢いたいと言うぞ。
其許のように下から出さっしゃれば、いかにもおれが名も所も名乗り申すじゃ。あのお侍どののように叱ったてて、びくりとも動く男ではない。おれが名を聞きたくば言うて聞かそう。おれはこのお屋敷に腰元奉公を勤めていた、小磯という者の兄、小原の万兵衛という者でえす。村でもちょっと口を利く百姓でえす。
こう言うからは、もう春風どのが合点であろう。さあ春風どの出やっしゃれ。手の悪い、留守遣うのか。どうするのじゃなあ。
小磯が兄といえば、この方の家来も同然。いよいよ慮外な奴め、侍ども、こいつ引っ立てい。
立とう。
侍ども、かならず聊爾(りょうじ)すな。民部控えめされい。
これははしたない。お前のでなさるる儀ではござりませぬ。さあ、奥へお出でなされませい。にっくい奴め。
よいてや。小磯が兄といえば、いかにもおれが密かに逢うて言うことがある。幸いじゃ、必ず叱るまいぞ。
はあ。
いかさま、こりゃ直にお逢いなされば済みそもない。どうやら縺(もつ)れ廻ったような詮索であるぞ。
さてはそちが小磯が兄、小原の万兵衛じゃな。はてよく来たなあ。いかにもおれに逢いたいこともあろう。おれも又ちとそちに逢いたいことがある。まあ聞こうわ、小磯は息災か。
なんじゃ、息災か。ここな、春風の人殺しめ。
やあ、なんと。
こなたは人殺しじゃわいの。
いや、推参なやつの。大切の若殿を人殺しとは。
最前からの狼藉、見逃しにはなりますまい。数馬どの。
秀太郎どの。
引っ立てましょう。
こりゃ両人、かならず聊爾(りょうじ)するな。
でも、あまりと申せば過言を申しまする。
おれが静まれと言うに、静まらぬか。
はあ。
なんと言うぞ、春風が人殺しじゃと言うか。
おおさ、こなたは人殺しじゃ。
そりゃ、どういうことで人殺しじゃ。
死にましたわいの。
死んだとは誰が。
妹小磯が。
やあ、小磯が死んだ。
くたばった。くたばってしもうた。
あの、小磯が。はああ、可愛やなあ、そりゃまたどうして死んだ。
どうしてとは。こなたが殺した。そこでこなたは人殺しじゃわいのう。
こりゃこりゃ、粗相なことを言うな。どうしておれが小磯を殺すもので。
なんぼう隠しても、もう逃れぬ。こなたが小磯を殺したわいの。
いや、様々のことをぬかしおる。いよいよこいつ乱気者(らんきもの)に極まった。それ、侍ども。引っ立てい。
侍ども、指でもつけな。民部、先刻(さっき)にから滅多にこの男を叱りめさるが、まだ白とも黒とも理屈の知れぬうちに、狼藉者じゃの乱気じゃのと粗忽千万、控えめされ。万兵衛とやら、わりゃ男気で面白い物の言いようじゃ。沙汰はないこと。この御家中で耳の明いて聞き分ける人間はおれ一人。ここに居合わせてそちが仕合せ。おれが聞いてくりょう。して妹は、どういう仔細で死んだ。
お前さまのように、事を分けて聞いて下されば申しまする。これ春風どの、よう聞かっしゃれ。おれが妹は一年一両二分の給金で、こなたの妹御の所へ腰元奉公にこそ住みましたれ、こなたの妾には住みゃせぬぞや。また妾に住まわすなら、牛の寝たほど金を取って、高津(こうず)新地で馬乗場(うまのりば)ほどな屋敷を買うて、親子兄弟が寝て暮らすわいの。そんなむさい性根を持つ万兵衛でない。ろくろくに合点もさせず妹を、こなたはなぜつまんだ。こなた、なぜ盗み喰いしたぞいの。
これこれ、声が高い、人が聞く。さあ、それは知れてあることじゃ。静かに言うてたも言うてたも。
いや大きな声をして言う。人が聞こうが誰が聞こうが、そこに頓着(とんちゃく)はない。言うことは言わにゃ置かぬ男でえすじゃ。
そうじゃ、男というものは言いにくい場所を、さっぱりと言うて退けるが男じゃ。聞き手はこの玄蕃じゃ。遠慮なしに、なんなりともツカツカ言え。
どうでもお前さまは、よいお人じゃ。言うて見ましょう。可愛そうに妹めが、いやがるものを主(しゅう)の威光で、叱ったり脅したりして、無理矢理三宝に押しつけ業(わざ)が、積もり積もりて因果なことには、妹めが腹はぽてれん。さあ、こなたの心に覚えがあろう。情をかけて、せめて館で目出度う産み落とさせ、末々には奥様にでも据えることか、慰みたい時は慰んでおいて、お腹に言い分が出来たりゃ、僅かなことを越度(おちど)に言い立て、暇出しゃったぞ。なんとこれが侍の身持ちでえすか。そりゃ侍でも何でもない。おれが前へ言いわけして見やれ。
懐胎のうちは介錯を頼む、見捨てはせぬと、こなたの直筆で書いておこしゃったこの書附、これが物言う。見捨てまいと言うておこっしゃってから、合力(ごうりょく)のことはさておいて、今日が日までむしのこ一匹見舞いにこぬぞや。
さあ、それには段々。
いや、言いわけ止(よ)しにしてもらおう。口車に乗るような万兵衛じゃござらぬ。それでもあいつが可愛さに随分と介抱して、朝晩の喰い物にも気をつけ、苦労した。聞いておくりゃれ、鰹節の代と鱚(きす)の乾物代が六貫目余りいった。それ程にまで介抱したところを、あいつが因果のつくばいに、今月十三日の日に、虫気がついて網にかかりおった。産月がたらぬかと思いながら、やれ、医者よ、薬よ祈祷のと、手足を擂粉木(すりこぎ)にして駆け廻って、取り上げさえ取りかえ引っかえ、およそ百三十五人かけたれども、よくあいつが因果のつくばいやら、それはそれは難産で、三日三夜さ網にかかって苦しんで、産み落とさずくたばった。その苦しんでいるうちに、妹めが言いおるは、こう懐胎の身にならずば死にはせまいもの、わしが嫌じゃ嫌じゃと言うものを、無理矢理にこうした身にしておいて、一度の問い音信(おとずれ)もせず、男めはのめのめと楽しんでおり、恨めしいは春風さん、聞こえぬというは若殿、わしが敵というは小野春風さんじゃ、必ず必ず敵を取って下さんせ、あ苦しや、堪え難(がた)やと、身をもがいて、足掻(あがき)死に死におった。その時のありさまを、思えば思えば可愛うて可愛うて、惨たらしいことをしたわいのう。
ほい。
なにさま、こりゃそちが言う通り、こっちの惣領どのが殺したも同然じゃ。なるほど違いもあるまい。人殺しというものじゃ。なんと民部、これじゃによって、めったに叱られぬて。
おれが侍ならば、妹の敵じゃ、こなたを真二つに打(ぶ)っ放すんじゃが、口惜しいわい。そこが土百姓のあさましさ。敵討ちはかなわんかや。千も万もない、さっぱりと料簡つけてやりましょう。
それはかたじけない。何ごとも皆因縁というものじゃ。この上はそちが料簡してくれねばならぬわい。
そんなところに無理を言う万兵衛でもござんせぬ。敵討ちも止めにして、春風どのの名も出すまい。結構な料簡して進じょう。
それはかたじけない。どんな料簡でも聞こう。是非に及ばぬと思いあきらめてくれさ。
料簡というは。
どうじゃぞ。
妹を返して貰いたい。
やあ。
妹さえ戻して貰えば、言い分はないほどに、そう合点さっしゃれ。なんと、さっぱりした料簡でござんしょがの。
あの死んだ妹を戻せか。
春風どのが殺したからは、春風どのの方から取り戻すが、わしが無理でごんすか。
いかさま、こりゃ尤もな料簡じゃ。
なんのそれが尤もな料簡か。なるほど、そう腹を立ってねだりかけるも至極無理ではないが、一度死んだ妹が、どうかえされるものであろう。ほんのわやくな子が、ねだるようなもので、二年三年争うても、埒のあかぬことじゃ。よいよい、この上はおれが料簡つきょう。御用金を持て。
はあ。
若殿にも、さぞ残念に思し召そうが、生死(しょうじ)の道は力に及ばぬ。兄妹の仲、われもさぞ悲しかろう。そこは思い諦めてくれたがよい。この金子は少々ながら、若殿より下さるる。百両は小磯が未来のため、菩提所(ぼだいしょ)へ寄進して、ずいぶん後を懇ろに弔うてやれ。また百両は其方に下さるる、位牌所賑やかに取り計ろうたがよい。この上は小磯じゃと思うて、其方を見捨てはなさるまい。さあ、これを規模にして帰れさ。
あのこの二百両で、料簡して帰れか。
若殿のお志じゃほどに、持って帰れさ。
馬鹿な侍じゃ、人の命が銭金で買われるものか。ふむ、そんなら金をねだりに来たと思やるか。これ、万兵衛は男でえすわいの。めくさり金の百両や二百両、何にするものじゃ。そんなことすると気が悪うなるぞ。さあ、千も万も入らぬ。早う妹を返して貰おう。
いかさま、こりゃ金づくじゃ済みそもないものじゃ。
そんなら玄蕃、どうぞよい料簡があろうかの。
依怙贔屓(えこひいき)なしに、正道(しょうどう)に申そうなら、こなたの首を渡すか、妹を戻すか、この二つのほかに料簡はないじゃ、がどうもそうなるまい。歴々の民部どのお扱いにかかって居やるに、外から口を差し出して言おうようもなし。ゆるりとこれにて見物いたそう。数馬、煙草盆持て。
はあ。
兄じゃ人、あれをお聞きなされたか。なんと料簡ござるまいか。しょせん面倒な。わたしが御前を引っ立てましょう。
よいよい、身に思案がある。静まっていようぞ。
聞けば小磯には阿母(おふくろ)があるげな。それをはったりと忘れた。この三百両は、若殿から阿母へ下さるる、寺詣り金にでもおしゃれ。都合五百両、この金子で料簡して、早う帰れさ。
とり貝かうるめの乾物を買うように、ちびちびとそんなことじゃゆかぬ。五百両のはした金で小磯が命を取り戻されるか。春風の人殺し、さあ、妹を返して貰おう。
これさ、声が高い。奥にはお勅使のお入(い)りじゃわい。
親人の耳へはいると、どうもならぬ。料簡して去(い)んでたもいのう。
勅使でも杓子(しゃくし)でも、そこらに遠慮はない。こなたはおれが妹を殺したじゃないか。ええ。
いや、推参な。
こりゃ、どうするのじゃ。妹を殺して、まだ足らないで、またおれを殺すのか。それでは小野の家が立つまいわいのう、さあ、殺さりょう、殺した殺した。
さあ、妹を返すか、おれを殺すか、どうするのじゃ。
さあ、全くそういうことじゃない。そう高声(たかごえ)を出されては。
ええ、面倒な侍じゃ。
いや、推参な。兄じゃ人をなんとする。
こりゃ秀太郎、あの男に指でもさすと小野のお家が立たぬぞ。皆惣領のうんつく太郎どのゆえじゃ。大事のお家の名の出ること。民部、控えていやれ。
さあ、それじゃによって、何分にも料簡して、早う戻ってたもいのう。さあ料簡してたもいのう。
その4へ。
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