歌舞伎十八番の内 暫 その1

歌舞伎十八番の内 暫

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目次

役名

  • 鎌倉権五郎景政 (かまくら ごんごろうかげまさ)
  • 清原武衡 (きよはらのたけひら)
  • 足柄左衛門高宗 (あしがら)
  • 荏原八郎国連 (えばら)
  • 鹿島入道震斎 (かしまにゅうどうしんさい)
  • 東金太郎義成 (とうがね)
  • 埴生五郎助成 (はにゅう)
  • 成田五郎義秀
  • 武蔵九郎氏清
  • 加茂次郎義綱
  • 加茂三郎義郷
  • 宝木蔵人貞利 (たからぎくらんど)
  • 渡辺小金丸行綱 (こがねまる)
  • 豊島平太 (とよしまへいだ)
  • 田方運八 (たごと)
  • 海上藤内 (うながみとうない)
  • 大住兵次
  • 那須の九郎妹実は景政の従妹照葉
  • 月岡の息女桂の前 (つきおかのそくじょかつらのまえ)
  • 月岡の息女老女呉竹 (くれたけ)
  • 奴八人
  • 半素襖侍四人
  • 侍女四人
  • 白丁大勢

鶴ヶ岡社頭(つるがおかしゃとう)の場

八人 : よんやさ。
一 : 江戸の歌舞伎の吉例に、一座も極まる顔見世月、
二 : 一番太鼓二番手と、繰り込む奴の大鳥毛、
三 : ふるとは雪かあられ酒、寒の師走も捻切りに、
四 : いつもなじみの下馬先で、盛切酒の飲仲間、
五 : ぐっと一杯二合半、ぶんぬき釘抜中抜の、
六 : 草履も投げの玄関先、お髭の塵取り機嫌取り、
七 : 名も鳥毛とは縁喜もよく、今日もはれなる伊達道具、
八 : 渡り拍子の音に連れて、めでたき時に相変らず、
一 : 勇み勇んで、
八人 : 振り込むべいか。

平太

これは何れも御苦労御苦労、今日(こんにち)清原武衡卿、

運八

当鶴ケ岡の神殿にて、関白宣下(せんげ)の思し立ち、

藤内

われわれとても今日より、思いの儘に立身出世、

兵次

めいめい誉れを鳥毛鑓(とりげやり)とは、幸先のよいこの繰り込み、

平太

平太 : まことにめでたい、

四人

事ではある。

動くな。

義綱

こりゃ何ゆえのこの狼藉。

荏原八郎

その仔細、

三人

言って聞かせん。

荏原八郎

何ゆえとは横道者(おうどうもの)、今日主君清原武衡卿には、関白宣下の式日(しきじつ)なるに、

埴生五郎

当鶴ケ岡の額堂(がくどう)へ、大福帳の額を上げしは、不届き至極の加茂の義綱、

武蔵九郎

武平卿の御前へ引き、きっと詮議に及ぶあいだ、

荏原八郎

そこ一寸(すん)も、

三人

動きおるな。

義綱

こりゃ大福帳を奉納せしを、不届きなりとはその意を得ず、国守の印を紛失なし、父の勘気は受けしかど、朝家を思う真心より奉納なせし大福帳。

義郷

それを下ろして他の額を、掛け召さるるは無法な振舞い。

蔵人

それ故ささえ申してござる。

平太

ヤア、ささえこさえをせしなどとは、承るさえ憎きやつ。

運八

武衡卿には天下の政治を、握らせ給う御志願あって、

藤内

当鶴ケ岡の額堂へ、御奉納の雷丸。

兵次

それに何ぞやそちらでは、大福帳の奉納額。

平太

こりゃ浪々のたつきに迫り、小商いでもするつもりか。

運八

運邪魔な額ゆえ、取りおろすを、

藤内

ささえ立なす、

四人 : 不届き者めが。

いやとよ、夫義綱様には左様な賤しきお心ならず、朝家の栄(さかえ)をお祈りのため、御奉納ありし大福帳。

呉竹

たとい御目障りになればとて、先へ奉納してある額面、それを取りのけ他の額を、懸け換えんとは無作法至極。

女一 : どうぞ、あのままお置き遊ばし、
女二 : さしもに広き、あの額堂、
女三 : 外へお掛けなされますよう、
女四 : 御無事を祈るお願い、
女一 : お聞き届け下さるよう、
四人 : ひとえにお願い、
六人 : 申し上げまする。

荏原八郎

ヤア、女どもまでしゃしゃり出て、聞きたくもなきよまいごと、それ、女どもから射止めてしまえ。

白丁大勢

ハッ。

義綱

ヤ、こりゃ何科(なにとが)もなき者までを、

義郷

射止めんなどとは無法千万。

埴生五郎

しからば、御前へ早う失(し)しょう。

義綱

サア、それは。

武蔵九郎

但しこれにて射止めようか。

義綱

サア、

荏原八郎

サア、

二人

サアサアサア

荏原八郎

義綱、返事は、

平太等四人

どうだ、エエ。

呼び : 出御。

立役/女方 : アノ声は。

敵役五人

エエ、出御だわ。

大薩摩

かん宮(きゅう)万里(ばんり)の花の時、栄華は雲の上もなき、月日もここに弥高き、時の威勢ぞ類いなき。

立役/女方 : ヤヤ、これは。

荏原八郎

ヤア、御前間近く尾籠千万。

敵役皆々

下がれエエ。

清原武衡

既に青雲の時至り、中納言清原の武衡、坂東諸国を切り従え、遠からずして天下の政治を我が手に握る幸先祝し、今日只今当社にて、冠装束身に着し、自ら昇る位山。

東金太郎

誠や君命かしこくも、雲井の花の魁は寒紅梅の赤っ面。

足柄左衛門

列る顔は紅に、赤いは酒の科ならで、これも吉例役廻り、

震斎

その故実さえ白梅に、瓢箪から出た駒ならで、鯰坊主のなま覚え、

照葉

君の御威勢誰あって背くものなき仰せを受け、不束ながらもお執持。

清原武衡

我に敵いやつばらは、罪を糺して刑に行い、日頃の望み足んぬる上は、皆万歳を唱えろエエ、

荏原八郎

いずれも君を祝されよ。

平太

只々御めでとう、

敵役皆々

存じまする。

義綱

後三年の戦いに、僅かな勲功あればとて、分に過ぎたるこの振舞い、

義郷

自ら高位高官の、冠装束附けまとい、

蔵人

天下の政治を握るなどとは、我意に募りし傲慢無礼。

呉竹

大福帳のお額まで、取りおろしたるこの様子、

義綱

以てのほかの事どもなるわ。

清原武衡

ヤア、我が面前にてその雑言、汝が父の頼義には、かねて遺恨のこの武衡、桂の前を我に靡かせ、これにて随身すればよし、さなくば成敗致してくれん。

義綱

ヤア、天理に背くおのれ武衡、何とて随身なすべきや。

自らとても夫ある身が、何とて操を破らんや。

呉竹

よしやこの身はどうなろうと、お二人様は御無難に、この場をお逃れ遊ばしませ。

蔵人

このありさまを都へ上り、逐一奏聞致されよ。

義綱

ササ、言うにや及ぶ、弟来れ。

白丁大勢

動くな。

東金太郎

ヤア、上意を背くのみならず、都へ奏聞遂げんなどとは、返すがえすも憎き奴めが。

足柄左衛門

この様子では、そやつらは所詮随身しめえから、

荏原八郎

首うち落として、我が君の御賢慮休め奉れ。

照葉

ハッ、差し出ましたる事ながら、神の社で血をあやさば、神慮の恐れござりますれば、何卒その儀は御見合わせを。

震斎

まま、これ照葉姉えも味方のくせに、気の弱い事は言わぬものだ。

清原武衡

生け置く時は邪魔なやつ、それゆえ成敗の用意致せ。

東金太郎

こんな事には手馴れている、成田五郎を呼び出さっせえ。

足柄左衛門

ハッ。
車舎りに控えたる君の愛臣成田五郎、御前の御召し、急いでこれへ。

成田五郎

かしこまってござります。

足柄左衛門

成田五郎。

敵役皆々

お来やったか。

成田五郎

お召しの声と一ように押っ開いたる寒紅梅、赤いは顔のしゃっ面見せ、昔に返り揚幕から、成田五郎義秀、これまで伺候つかまつってござりまする。

清原武衡

皆一同にそれへ出て、片っ端から成敗しろ、エエ、

成田五郎

君命背く奴輩を、首うち落とすに何の手間ひま、覚えの刀研ぎすまし、疾うより控えいてござる。

清原武衡

ソレ、用意いたせ。

六人

ハッ、かしこまってござりまする。よんやまかしょとな。
やっとことっちゃあ、うんとこなあ。

その2

参考文献

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