役名
- 鎌倉権五郎景政 (かまくら ごんごろうかげまさ)
- 清原武衡 (きよはらのたけひら)
- 足柄左衛門高宗 (あしがら)
- 荏原八郎国連 (えばら)
- 鹿島入道震斎 (かしまにゅうどうしんさい)
- 東金太郎義成 (とうがね)
- 埴生五郎助成 (はにゅう)
- 成田五郎義秀
- 武蔵九郎氏清
- 加茂次郎義綱
- 加茂三郎義郷
- 宝木蔵人貞利 (たからぎくらんど)
- 渡辺小金丸行綱 (こがねまる)
- 豊島平太 (とよしまへいだ)
- 田方運八 (たごと)
- 海上藤内 (うながみとうない)
- 大住兵次
- 那須の九郎妹実は景政の従妹照葉
- 月岡の息女桂の前 (つきおかのそくじょかつらのまえ)
- 月岡の息女老女呉竹 (くれたけ)
- 奴八人
- 半素襖侍四人
- 侍女四人
- 白丁大勢
鶴ヶ岡社頭(つるがおかしゃとう)の場
八人 : よんやさ。
一 : 江戸の歌舞伎の吉例に、一座も極まる顔見世月、
二 : 一番太鼓二番手と、繰り込む奴の大鳥毛、
三 : ふるとは雪かあられ酒、寒の師走も捻切りに、
四 : いつもなじみの下馬先で、盛切酒の飲仲間、
五 : ぐっと一杯二合半、ぶんぬき釘抜中抜の、
六 : 草履も投げの玄関先、お髭の塵取り機嫌取り、
七 : 名も鳥毛とは縁喜もよく、今日もはれなる伊達道具、
八 : 渡り拍子の音に連れて、めでたき時に相変らず、
一 : 勇み勇んで、
八人 : 振り込むべいか。
これは何れも御苦労御苦労、今日(こんにち)清原武衡卿、
当鶴ケ岡の神殿にて、関白宣下(せんげ)の思し立ち、
われわれとても今日より、思いの儘に立身出世、
めいめい誉れを鳥毛鑓(とりげやり)とは、幸先のよいこの繰り込み、
平太 : まことにめでたい、
事ではある。
動くな。
こりゃ何ゆえのこの狼藉。
その仔細、
言って聞かせん。
何ゆえとは横道者(おうどうもの)、今日主君清原武衡卿には、関白宣下の式日(しきじつ)なるに、
当鶴ケ岡の額堂(がくどう)へ、大福帳の額を上げしは、不届き至極の加茂の義綱、
武平卿の御前へ引き、きっと詮議に及ぶあいだ、
そこ一寸(すん)も、
動きおるな。
こりゃ大福帳を奉納せしを、不届きなりとはその意を得ず、国守の印を紛失なし、父の勘気は受けしかど、朝家を思う真心より奉納なせし大福帳。
それを下ろして他の額を、掛け召さるるは無法な振舞い。
それ故ささえ申してござる。
ヤア、ささえこさえをせしなどとは、承るさえ憎きやつ。
武衡卿には天下の政治を、握らせ給う御志願あって、
当鶴ケ岡の額堂へ、御奉納の雷丸。
それに何ぞやそちらでは、大福帳の奉納額。
こりゃ浪々のたつきに迫り、小商いでもするつもりか。
運邪魔な額ゆえ、取りおろすを、
ささえ立なす、
四人 : 不届き者めが。
いやとよ、夫義綱様には左様な賤しきお心ならず、朝家の栄(さかえ)をお祈りのため、御奉納ありし大福帳。
たとい御目障りになればとて、先へ奉納してある額面、それを取りのけ他の額を、懸け換えんとは無作法至極。
女一 : どうぞ、あのままお置き遊ばし、
女二 : さしもに広き、あの額堂、
女三 : 外へお掛けなされますよう、
女四 : 御無事を祈るお願い、
女一 : お聞き届け下さるよう、
四人 : ひとえにお願い、
六人 : 申し上げまする。
ヤア、女どもまでしゃしゃり出て、聞きたくもなきよまいごと、それ、女どもから射止めてしまえ。
ハッ。
ヤ、こりゃ何科(なにとが)もなき者までを、
射止めんなどとは無法千万。
しからば、御前へ早う失(し)しょう。
サア、それは。
但しこれにて射止めようか。
サア、
サア、
サアサアサア
義綱、返事は、
どうだ、エエ。
呼び : 出御。
立役/女方 : アノ声は。
エエ、出御だわ。
かん宮(きゅう)万里(ばんり)の花の時、栄華は雲の上もなき、月日もここに弥高き、時の威勢ぞ類いなき。
立役/女方 : ヤヤ、これは。
ヤア、御前間近く尾籠千万。
下がれエエ。
既に青雲の時至り、中納言清原の武衡、坂東諸国を切り従え、遠からずして天下の政治を我が手に握る幸先祝し、今日只今当社にて、冠装束身に着し、自ら昇る位山。
誠や君命かしこくも、雲井の花の魁は寒紅梅の赤っ面。
列る顔は紅に、赤いは酒の科ならで、これも吉例役廻り、
その故実さえ白梅に、瓢箪から出た駒ならで、鯰坊主のなま覚え、
君の御威勢誰あって背くものなき仰せを受け、不束ながらもお執持。
我に敵いやつばらは、罪を糺して刑に行い、日頃の望み足んぬる上は、皆万歳を唱えろエエ、
いずれも君を祝されよ。
只々御めでとう、
存じまする。
後三年の戦いに、僅かな勲功あればとて、分に過ぎたるこの振舞い、
自ら高位高官の、冠装束附けまとい、
天下の政治を握るなどとは、我意に募りし傲慢無礼。
大福帳のお額まで、取りおろしたるこの様子、
以てのほかの事どもなるわ。
ヤア、我が面前にてその雑言、汝が父の頼義には、かねて遺恨のこの武衡、桂の前を我に靡かせ、これにて随身すればよし、さなくば成敗致してくれん。
ヤア、天理に背くおのれ武衡、何とて随身なすべきや。
自らとても夫ある身が、何とて操を破らんや。
よしやこの身はどうなろうと、お二人様は御無難に、この場をお逃れ遊ばしませ。
このありさまを都へ上り、逐一奏聞致されよ。
ササ、言うにや及ぶ、弟来れ。
動くな。
ヤア、上意を背くのみならず、都へ奏聞遂げんなどとは、返すがえすも憎き奴めが。
この様子では、そやつらは所詮随身しめえから、
首うち落として、我が君の御賢慮休め奉れ。
ハッ、差し出ましたる事ながら、神の社で血をあやさば、神慮の恐れござりますれば、何卒その儀は御見合わせを。
まま、これ照葉姉えも味方のくせに、気の弱い事は言わぬものだ。
生け置く時は邪魔なやつ、それゆえ成敗の用意致せ。
こんな事には手馴れている、成田五郎を呼び出さっせえ。
ハッ。
車舎りに控えたる君の愛臣成田五郎、御前の御召し、急いでこれへ。
かしこまってござります。
成田五郎。
お来やったか。
お召しの声と一ように押っ開いたる寒紅梅、赤いは顔のしゃっ面見せ、昔に返り揚幕から、成田五郎義秀、これまで伺候つかまつってござりまする。
皆一同にそれへ出て、片っ端から成敗しろ、エエ、
君命背く奴輩を、首うち落とすに何の手間ひま、覚えの刀研ぎすまし、疾うより控えいてござる。
ソレ、用意いたせ。
ハッ、かしこまってござりまする。よんやまかしょとな。
やっとことっちゃあ、うんとこなあ。
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